先に結論から

年収が高いのに貯まらないのは、年収(フロー)と純資産(ストック)が別の数字で、収入が増えるほど負債や支出も一緒に膨らみやすいからです。

昇進や転職で年収が上がった直後は、手取りが増えた実感がある。ボーナスの桁も変わる。けれど半年、一年と経つうちに、「思ったほど貯まっていない」という感覚に変わっていく。使い方が急に緩んだ覚えもないのに、である。

これは、あなたの使い方が下手だからではない。年収という数字と、今どれだけ貯まっているかという数字は、そもそも別のものを測っているだけだ。

当てはまる人

年収や手取りは上がったのに、貯まっている実感がない人

住宅ローンなどの負債を抱えながら、資産と負債を一枚に並べて見たことがない人

当てはまらない人

純資産(資産−負債)を定期的に計算し、推移まで把握できている人

収入・支出・負債の変動が小さく、全体像がすでに一枚で見えている人

なぜ見えないのか

年収は、一年間にいくら入ってきたかという「流れ」の数字だ。給与明細やボーナス通知で、否応なく毎回目に入る。一方、今この瞬間に自分がどれだけの価値を持っているかという「たまった結果」の数字は、誰も計算して見せてくれない。個人にも、資産と負債を並べて引き算した一枚——個人版のバランスシート——が対応するのだが、詳しくは個人にも、バランスシートがあるに譲る。

年収(フロー) 一年でいくら入ってきたか。毎月、給与明細で否応なく見える。 見えやすい 年収の数字 純資産(ストック) 見えにくい 資産 − 負債 今この瞬間、どれだけの価値を持っているか。誰も計算して見せてくれない。
年収は「一年の流れ」、純資産は「今のたまった結果」。別の軸にある二つの数字を、同じものだと思ってしまいやすい。

見えにくい理由は、年収が上がるほど、その裏側も一緒に膨らみやすいからだ。収入が増えれば、住宅ローンの借入枠は広がり、生活の水準も自然と上がる。フロー(収入)が増えても、その分だけ反対側の負債や支出も膨らんでいれば、資産から負債を引いた純資産という数字は、思うほど動かない。年収という表の数字だけを見ていると、この裏側の膨らみには気づけない。

年収と純資産を分ける判断式

年収は一年の「流れ」、純資産は今の「たまった結果」。貯まっているかどうかを測れるのは後者だけで、式は引き算一つ。あわせて、資産のどれだけを借入で支えているかも一つの比率で見える。

純資産 = 資産合計 − 負債合計

レバレッジ = 負債合計 ÷ 資産合計

田中家サンプルで見ると

45歳・共働き・子ども2人の田中家を例に、一枚にしてみる。自宅(時価)6,500万、投資用不動産2,300万、保険・年金600万、株式・投信・預金360万で、資産は合計9,760万。そこから自宅の住宅ローン3,800万、投資用ローン2,000万、その他ローン180万、合計5,980万の負債を引くと、純資産は約3,800万になる。

この一枚のどこにも、年収そのものは出てこない。出てくるのは、その年収が結果としてどれだけ純資産という形に変換されているか、という答えだけだ。

田中家サンプル (45歳・共働き・子ども2人/数値は正典どおり) 資産 合計 9,760万 自宅(時価) 6,500万 投資用不動産 2,300万 保険・年金 600万 株式・投信・預金 360万 負債 合計 5,980万 自宅の住宅ローン 3,800万 投資用ローン 2,000万 その他ローン 180万 純資産(資産 − 負債) 約3,800万 年収の高さだけでは、この中身は分からない レバレッジ 負債 ÷ 資産 = 約61% 集中度 不動産が資産の 約9割
純資産だけを見れば悪くないが、中身は不動産に九割が集中し、六割超を借入で支えている。年収の数字には、この質は出てこない。

さらに中身を見ると、負債5,980万は総資産9,760万の約61%にあたる。資産のうちどれだけを借入で支えているかという、いわゆるレバレッジだ。加えて、自宅と投資用を合わせた不動産8,800万は、総資産の約9割を占める。資産の大半が不動産という一つの形に偏っているということでもある。純資産約3,800万という数字だけを見れば悪くないように見えるが、その中身は、動かしにくい不動産に九割が集中し、六割超を借入で支えている、という質を持っている。年収の高さだけを見ていては、ここまでは分からない。

まず、自分の一枚を見てみる

年収の高さは、貯まっているかどうかの証明にはならない。証明できるのは、今持っているものと借りているものを並べて引いた、その一枚だけだ。この一枚は、増やし方を教えるものではない。ただ、今どこに立っているかを数字にするだけだ。それでも、その一枚があるかないかで、次に何を考えればいいかは変わってくる。

サンプル世帯の一枚を先に覗いてみたい人は「田中家サンプルで見る」から。自分の家の輪郭を確かめたい人は、5分で個人BS診断から始められる。

注意点

年収と純資産の関係は世帯ごとに異なり、「年収が高い=貯まっていない」と決まるわけではない。収入増に負債や支出が連動しない家計もある。

個人バランスシートは概算把握のための一枚であり、投資助言や家計改善の処方箋ではない。不動産などの評価額は仮の時価で、実際の売却額や銀行評価とは異なる場合がある。

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