先に結論から

表面利回りだけで物件を買うと危ないのは、その数字が経費・ローン返済・空室を一切含まない「入口の値」だからです。借入の重さ(LTV)・返済余力(DSCR)・手残り(FCF)の3軸を重ねてはじめて、物件を「持ち切れるか」が判断できます。

当てはまる人

物件資料の表面利回りを主な判断材料にしてきた保有者・検討者

LTV・DSCR・FCF という言葉は知っているが、3つの関係を一枚で見たことがない人

当てはまらない人

3指標を物件単体・保有全体の両方で定期的に測っている人

各指標の定義から確認したい人(LTVDSCRFCF の個別頁へ)

なぜ表面利回りだけでは判断できないか

「表面利回り8%」の物件があります。これは良い物件でしょうか。答えは「情報が足りないので判断できない」です。

表面利回りの定義と限界

表面利回りは物件広告で最も目立つ数字だが、費用側を何も含まない「入口の値」であることが限界になる。

表面利回り = 年間賃料 ÷ 物件価格 × 100

管理費・修繕費・ローン返済・固定資産税・空室リスクは一切反映されない。

原則

投資用不動産の判断に必要なのは「買えるか」ではなく「持ち切れるか」「増やせるか」「家族全体で耐えられるか」の3問です。

3つの核心指標

WAM Proが物件評価に使う核心指標は3つです。これを理解すれば、不動産業者の説明に惑わされなくなります。

3つの核心指標 — NOI / DSCR / LTV を3つの紋章として配置

表面利回りを越えて、3つの指標で立体的に読む

FIG. 1 — Three Metrics Triangle
物件は3つの軸で評価する — 資本構造・返済余力・手残り
物件 PROPERTY LTV 借入比率 資本構造 DSCR 返済余力 運用ストレス耐性 FCF 手残りCF 家計貢献度

どれか1つだけを見ても判断できない。3つの軸が同時に健全圏にあって初めて、物件は「持ち切れる」状態になる。

① LTV(Loan To Value)— 借入比率

計算式
LTV = ローン残高 ÷ 不動産時価 × 100
例:不動産時価 5,000万・ローン残高 3,500万 → LTV = 70%

LTVは「不動産の現在価値に対して、どれだけ借入しているか」を示す指標です。銀行が最も重視する指標の一つでもあります。定義・目安・ポートフォリオ全体での見方はLTVとは — 借入比率をどう読むかで詳しく扱っています。

安全圏
〜60%
借換え・追加融資ともに対応しやすい。物件価格が下落しても余裕がある。
要注意
60〜75%
一般的な水準。ただし金利上昇・価格下落で一気に圧迫される可能性がある。
高リスク
75%〜
借換えが困難になるリスク。新規融資を断られる可能性が高くなる。

② DSCR(Debt Service Coverage Ratio)— 返済余力

計算式
DSCR = NOI ÷ 年間元利返済額
NOI = 年間賃料収入 − 年間運営費用(管理費・固都税・修繕等。返済は含めない)。手元で素早く見るときは「月額賃料 ÷(月次返済+固都税月割)」の簡易式も使われるが、経費を引かない分だけ高めに出る。下の計算機は簡易式ベース。

DSCRは「物件の純収益が、ローン返済をどれだけ上回っているか」を示す指標です。1.0を下回ると、物件の収益だけでは返済できない状態です。本式と簡易式の差・目安・動き方はDSCRとは — 返済余力をどう測るかで詳しく扱っています。

健全
1.25以上
WAM Proの目標水準。空室や修繕が発生しても返済に余裕がある。
注意
1.10〜1.25
空室が続くと厳しくなる。管理体制の強化が必要。
危険
1.10未満
少しの変化で赤字に転落。出口戦略の検討が必要。

③ FCF(Free Cash Flow)— 手残りキャッシュフロー

計算式(概算の一つの見方)
FCF ≒ 月次賃料 − ローン返済 − 管理費 − 固定資産税月額 − 修繕積立
FCFがプラスであれば「持ち出しなし」。マイナスなら毎月補填が必要。何を経費に含めるかで数字は変わり、銀行が審査で見る「世帯全体の余力」とは層が異なる。

最終的に手元に残るお金がFCFです。表面利回りでは見えないこの数字こそが、物件の実力を表しています。物件単体の手残りと世帯全体の余力という二層の見方は不動産の手残り(FCF)で詳しく扱っています。

INTERACTIVE — 計算機
自分の数字で LTV / DSCR / FCF を計算する

入力すると即時に再計算されます。色分けは目安水準。

8,000
27.6
LTV
80.0%
高リスク
DSCR
1.66
健全
月次FCF
+15.0万
プラス
表面利回り
6.0%
参考値

バランスシートで不動産を見る

個別物件の指標だけでなく、自分のバランスシート全体でどう変わるかを見ることが重要です。

BS天秤 — 左に建物、右にローン契約書、金線で結ばれた均衡

不動産は天秤の片側ではない。資産と負債が一対で動く

FIG. 2 — Balance Sheet Scale
物件追加 = 資産 + 負債 が同時に動く
約1.2億 総資産 8,380万 負債 純資産 3,780万 物件 1 件追加(田中家サンプル) — BS は両側が同時に重くなる 資産 +2,400万 / 負債 +2,400万 / 純資産 ±0(購入直後)

物件を「買う」のではなく「BSに追加する」。両側が同時に増える設計を、家族全体で持ち切れるかが核心。

指標物件追加前物件追加後変化
総資産9,760万1億2,160万+2,400万
ローン残高5,980万8,380万+2,400万
純資産3,780万3,780万±0(購入直後)
不動産ポートフォリオLTV約66%約71%+5pt
新物件の単体DSCR(本式)1.06薄い圏
新物件の月次手残り+0.6万ごく薄い

数値は田中家サンプル(45歳・共働き・個人BS の基礎と同じモデルケース)に、価格2,800万・自己資金400万・表面利回り5.6%の物件を1件加えた概算例です。購入した瞬間、純資産はほとんど動かず、BS の両側だけが膨らみます。そして表面利回り5.6%でも、単体DSCR は 1.06、月次手残りは +0.6万 — 「買える」ことと「持ち切れる」ことの距離が、この3つの数字に表れます。

銀行目線で自分を評価する

融資審査では、銀行は以下を見ています。自分の状況を銀行目線で把握することが、借入余力の正確な把握につながります。都市銀・地銀・信金・ノンバンクで目線がどう違うかはあなたを見る、銀行担当者の目で詳しく扱っています。

銀行目線 — 巨大な目が書類を見下ろす紋章風の構図

融資判断は、自分の見方ではなく銀行の見方で読む

三つの数字で読み直す

「買えるか」は銀行が答えてくれる。「持ち切れるか」に答えられるのは、LTV・DSCR・FCF を自分の BS 全体と重ねて見たときの自分だけ——これが本記事の結論です。

注意点

本頁の水準区分・計算例は一般的な目安と概算であり、融資の可否・条件を保証するものではない。金融機関ごとに評価方法(時価・積算・収益還元、NOI の範囲)は異なる。

田中家サンプルはモデルケースであり、特定の物件の購入・保有・売却を推奨するものではない。計算機の出力も概算(簡易式ベース)で、実際の判断には個別の条件確認を要する。

自分の LTV・DSCR は、資産と負債を一枚に並べると見えてきます。